悲劇の本能・・・三島由紀夫『盗賊』

彼は美子の若い葉のように弾力のある掌をそっと握りながら、「もしこの人がいなくなったら」と竦然として幾度か思った。この竦然とする気持の底には、冒険家が死の刹那に感ずるような、不真面目な甘美なあるもの、子供がサーカスや戦争を喜ぶ気持に通うもの、あの原始的な悲劇の本能がひそんでいなかったと誰が言えよう。

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しっくりきた表現だったのでメモ代わりに投稿します。俗に言う「かわいそうな自分が好き」なタイプの人にもこの辺りに含まれるのでしょうか。

何かを獲得すると同時に喪失したときの状況を想起する、そして実現した時に絶望と同時に「一点の満足」を覚える。藤村明秀のこの絶妙に矛盾した気質を鋭く表した「悲劇の本能」という言葉を見て、実際にこのような性質を持つ周囲の人(自分自身も含まれるかもしれない)の顔を思い出し、上手いこというなあと感じました。