2024-01-01から1年間の記事一覧

悲劇の本能・・・三島由紀夫『盗賊』

彼は美子の若い葉のように弾力のある掌をそっと握りながら、「もしこの人がいなくなったら」と竦然として幾度か思った。この竦然とする気持の底には、冒険家が死の刹那に感ずるような、不真面目な甘美なあるもの、子供がサーカスや戦争を喜ぶ気持に通うもの…

新田次郎『孤高の人』初読の感想

新田次郎氏の長編山岳小説。 高校時代は山岳部に所属し現在も夏山縦走程度の登山を行う私にとって、山は比較的身近な存在です。しかし同時に、冬山やクライミングなどレベルの高い内容となると、安全性への懸念だけでなく経済的、時間的制約を受けて断念せざ…

三浦しをん『愛なき世界』初読の感想

三浦さんの小説は初めて読みました。きっかけは知人からの勧め。自分自身が本村さんと同じく理学部生物科学(院生ではなく学部生ではあるが)に所属していること、勧められた当時意中の相手に振り向いてもらえずにいたこと、その相手が農学(「本村さん」の…

どうにもならないこと・・・三島由紀夫『新恋愛講座』

「そして人生が、自分のよい意図、正しい意図、美しい意図だけでは、どうにもならないということを学んで、それに絶望して、だめになってしまう人は、人間としても伸びて行けない人だといわなければならない。」 --- いや、本当にそう思いました。 これまで…

恋に恋する・・・三島由紀夫『新恋愛講座』

「だんだん成長するとともに、われわれの中には、恋愛は決して自分の頭の中だけで考えているものではない、つまり、相手の意思、相手の全精神生活と自分の精神生活とがそこでめぐり合って、ぶつかり合って、相手からとるべきものをとり、自分から与えるべき…

穏やかな世界・・・若林正恭『社会人大学人見知り学部 卒業見込み』

まず第一に、人からの忠告よりも自分の感覚に従う天邪鬼さを備えていた筆者。次第に、他者からの大方の指摘は大体正しく、自分の信念に従うというよりも世の中に迎合して「穏やか」な生き方をするようになります。 しかし、自分で組み立てた論理(または憤り…