理系大学生の読書記録

暇つぶしで読んだ本を、気の向くままつらつら記録します

トマス・S・クーン『科学革命の構造』(青木薫訳)

少し前に読んだ青木重幸氏(進化生物学における群淘汰説を否定する強力な根拠を提示したアブラムシの研究者)の著書『兵隊を持ったアブラムシ』の中で紹介されていた本書。青木氏はこの本に衝撃を受け、系統分類学者としての記述的な研究から、問題設定を明…

村上春樹『アフターダーク』初読の感想

村上春樹氏の作品(特に長編)には数々の伏線が回収されずに放置されているかのようなものも見受けられ、え?これで終わり?という風に感じることが多いです。話の筋書きとしては理解できないものも多く、特にねじまき鳥なんかは意味わからんすぎてそのまま…

月の物理・・・伊予原新『月まで三キロ』

最近は時間的にも気持ち的にもゆっくり本を読む余裕がなかったのですが、ようやく読む気になってきたので、表紙買いして積読していた伊予原さんの短編を。 伊予原さんの小説は初めて読みましたが、伊予原さん自身が地球惑星科学で博士号をとられているとのこ…

悲劇の本能・・・三島由紀夫『盗賊』

「彼は美子の若い葉のように弾力のある掌をそっと握りながら、「もしこの人がいなくなったら」と竦然として幾度か思った。この竦然とする気持の底には、冒険家が死の刹那に感ずるような、不真面目な甘美なあるもの、子供がサーカスや戦争を喜ぶ気持に通うも…

新田次郎『孤高の人』初読の感想

新田次郎氏の長編山岳小説。 高校時代は山岳部に所属し現在も夏山縦走程度の登山を行う私にとって、山は比較的身近な存在です。しかし同時に、冬山やクライミングなどレベルの高い内容となると、安全性への懸念だけでなく経済的、時間的制約を受けて断念せざ…

どうにもならないこと・・・三島由紀夫『新恋愛講座』

「そして人生が、自分のよい意図、正しい意図、美しい意図だけでは、どうにもならないということを学んで、それに絶望して、だめになってしまう人は、人間としても伸びて行けない人だといわなければならない。」 --- いや、本当にそう思いました。 これまで…

恋に恋する・・・三島由紀夫『新恋愛講座』

「だんだん成長するとともに、われわれの中には、恋愛は決して自分の頭の中だけで考えているものではない、つまり、相手の意思、相手の全精神生活と自分の精神生活とがそこでめぐり合って、ぶつかり合って、相手からとるべきものをとり、自分から与えるべき…

穏やかな世界・・・若林正恭『社会人大学人見知り学部 卒業見込み』

まず第一に、人からの忠告よりも自分の感覚に従う天邪鬼さを備えていた筆者。次第に、他者からの大方の指摘は大体正しく、自分の信念に従うというよりも世の中に迎合して「穏やか」な生き方をするようになります。 しかし、自分で組み立てた論理(または憤り…